2025/10/27 22:23

空想すること。
それは記憶をもう一度、別の形で見る行為かもしれない。
今回のコレクションは、空想と記憶の接続を拡張することを目的としています。
記憶のなかにしか存在しなかった風景を、いま目の前に再構成するように。
私たちは日々、外の世界から受け取る知覚と、想像や夢、記憶のなかで生まれる内向イメージのあいだを、無意識のうちに往復しています。
同じ出来事でも、時間が経てばまったく違う印象として残る。
それは、一つの形に二つの世界が共存している状態です。
このコレクションは、デヴィッドリンチの未完の脚本「ロニー・ロケット」に大きな影響を受けています。
資金難で撮影できなかったこの脚本は、幻に終わった作品。
でも、リンチの頭の中では、今も撮り続けられているのかもしれません。
もし、現実の外側にもう一つの現実があるとしたら。
このコレクションは、その境界を布の上に描こうとしています。
多くのアイテムはリバーシブル仕様。
1着で2つの経験、2つの記憶をつくるという発想です。
同じ服でも、裏返すことでまったく異なる印象や物語を纏える。
それは、外側の知覚と内側のイメージを行き来する装置のような仕掛けです。

Skipper Shirt
生地は、かつてPRADAが手掛けたデッドストック。
柔らかなギンガムに花の刺繍。
クラシックなのにどこかズレていて可愛い。
生地の上品さと形のゆるさ。
そのミスマッチがちょうどいいバランスです。

Reversible Knit Pullover
CLTツイードは、メリノ種の生後半年以内に刈り取られた柔らかな糸に、カシミヤの紡毛糸とウールネップを配合したもの。
ムラというか、手の跡みたいな表情があります。

オノエナチュラルは、ウルグアイウールを無染色で紡いだ原着スラブヤーン。
染めを加えないことで、自然のままのトーンとスポンジッシュな質感が残ります。
どちらも天竺で編まれたゆとりのあるプルオーバーで、裏面にはリシェスウールの発色の良いポケットが潜んでいます。
裏返せば、まったく別の印象が立ち上がる構造。
内側に記憶を隠し持つようなニット。
ニットでリバーシブルって、なかなか見ないですよね。


Reversible Knit Hoodie
表地はイエロー×ブラウンのブロックチェック。
裏地はピンクとグレーの三杢。
どちらの面もダブルフェイス仕様で編み立てられた、存在感のあるニットフーディです。
ブロックチェックの柄は、リンチのイレイザーヘッドに登場する床模様から着想を得たもの。
一方、裏面のピンクは「おじさんになっても着られるピンクとは何か」をテーマに、2色のグレーを掛け合わせて柔らかく抽象的なトーンに調整されています。
表地はウルグアイ産の極細メリノとフランス産メリノ、カシミヤをブランドした糸を使用。
裏地にはエクストラファインメリノ×カシミヤ混の三杢糸。
両面を同時に編み上げるダブルフェイス仕様のため、表裏で異なる表情と肌触りを楽しめます。
見た目のインパクトに反して、すごく軽くて柔らかい。
形はちょっと変わってて、首裏には通し穴があり、頭を通すことでシルエットが変化します。
着物にフードを足したようなゆるさです。


Reversible Italian Military Pants
表地は、静岡・天龍社によるコーデュロイ。
日本で唯一コール天を織ることができる産地です。
織りから畝のカット、洗い、仕上げまでを分業で行い、大量の水で揉み込むように洗うことで、他国にはない柔らかい膨らみと、温度を感じるような表情が生まれます。
裏地は、尾州産のケンピウール。
昔は劣化品と呼ばれた素材ですが、揉み込み洗いと天日干しによって、しなやかで上質な風合いに仕上がっています。
時間をかけて熟成されたような奥行き。
いい顔してます。
脇のカーブラインが美しい、リラックスしたイージーシルエット。
裾の切り替えをめくると裏の素材が顔を出し、まるで別の服のように表情が変わります。


Reversible OTAHUKU Coat
生地はリモンタ社によるダブルフェイスナイロン。
世界のメゾンにも供給される、しなやかでありながら構築的なハリを持つ素材です。
形は三宅一生のモモンガコートをベースに、袖下に大きな楕円のカーブを描き、オタフク娘のほっぺたを加えたディテールに。
体を包み込むようなシルエットと、ハイネックの襟。
すべてのパーツはスナップボタンで構成されています。
アメリカのシュールさ、日本の造形美、ローカルな笑い。
異文化の再構成を、ユーモアと知性で形にした1着です。


Reversible Bag
表地はパンツと同じく天龍社のコーデュロイ。
裏地はイタリア製のヴァージンウール。
刈り取った羊毛をそのまま紡いだ生地で、油分を多く含み、わずかな艶とハリを持ちます。
スーツ地のように上品で、肌に触れると滑らかな感触が残ります。
ナスカンで持ち手の長さを切り替えられる仕様。
短く持つと形が崩れ、独特の重力を帯びたフォルムに。
小さなポケット付きで、機能性も備えています。
服をつくるという行為は、記憶や空想を現実の形に置き換えることなのかもしれません。
このコレクションでは、表と裏、現実と夢、過去と現在がひとつの服の中でゆるやかに混ざり合っています。
人はみな、皮膚の下に内面の幻想を隠して生きている。
きっと今日も誰かの記憶の中で
違う色をしているはずです。
oira
「004 / I(私) fantasize(空想する).」
