2025/09/25 23:03
ADAPTARTの来季テーマは「contradiction」
服を見ていると、その言葉がただのコンセプトではなく、実際に仕立てに落とし込まれているのが分かる。
机上の空論ではなく、袖や裾の動き、布の落ち方、ボタンの配置といった細部のなかに、その思想は確かに形として現れている。



たとえば、ジャケットやショーツ、Tシャツに散りばめられた複数のボタン。
通常なら機能のために存在するものが、ここでは飾りでもあり、秩序を乱す要素でもある。
正しい場所にないボタンがあることで、私たちは服に潜むルールを意識する。
けれど同時に、そのルール自体を疑うことになる。
着る人はいつのまにか服をどう着るかだけでなく、自分が何を信じているのかを考えさせられる。



ドレープを抑え込むように仕立てたシャツや、位置をずらしたボタン、ねじれを加えたコーデュロイ、ギャザーで揺れを強調したショーツ。
すべての服に共通するのは、整えすぎないという姿勢だ。
布の流れを制御したり、あえてズレを生んだりすることで、着る人の身体と動きに矛盾を抱かせる。
理想と現実がせめぎ合うユートピアを、洋服という形で探っている。
背景には、フランスの生物学者 Pierre Giraudon の作品からの着想がある。
彼は植物や昆虫をレジンに閉じ込め、一瞬の生命を永遠のかたちに変えた。
自由を奪いながら、永遠性を与える。
矛盾を孕んだその美は、ADAPTART の服に重なっている。



パンツやコートに施された曲線は、直線の理性を裏切りながら、身体に寄り添う。
鏡の前で歩くと、その歪みが影に反映され、不安定さの中にしかない美が立ち上がる。
それは、Giraudon が透明なレジンの中に閉じ込めた動きの痕跡とも呼応している。

哲学的に言えば、このコレクションは「ユートピアの不完全さ」を描いているのかもしれない。
整いすぎてもないし、壊れているわけでもない。
そのちょうど間にある、不安定で美しい状態。
矛盾を否定するのではなく、受け入れてみる。
矛盾という言葉は、一見ネガティブに聞こえるかもしれない。
でも実際は、世界も人間も、矛盾のかたまりでできている。
だからこそ、その不完全さに惹かれ、そこに新しい可能性を見つけられるのだと思う。


ちょっと不器用で、余白や不協和音を残したままのほうが、ずっと人間らしい。